動画編集業界の実態:デジタル小作人と搾取の構造
2024.07.14
動画制作会社ムービーインパクトCEOの神酒と申します。動画編集業界、盛り上がっていますが、問題も感じているので、コラムを書きました。動画業界、魅力でいっぱいですが、副業で動画編集者を考えている方、ご一読ください。
動画編集業界の実態:デジタル小作人と搾取の構造
近年、日本では「動画編集者」という職業が急増しています。副業として手軽に始められ、高収入が得られるとして若者を中心に人気を集めています。しかし、この現象の裏には深刻な問題が潜んでいます。
業界の現状
動画編集市場は急速に拡大しており、2023年には6,253億円にまで成長しました。2027年には1兆228億円に達する見込みです[1]。この成長に伴い、動画編集者の数も増加の一途を辿っています。しかし、この増加が業界に様々な問題をもたらしています。
デフレスパイラルの発生
実力不足の編集者が乱立することで、業界全体の単価が下落しています。特に、駆け出しの編集者や学生、主婦層が低単価で仕事を受注することで、全体的な相場が押し下げられています。これにより、熟練した編集者でさえも適正な報酬を得ることが困難になっています。
「情報商材」の罠
多くの動画編集スクールや講座は、実質的に「情報商材」に過ぎません。これらは単に仕事のやり方を教えるだけで、実践的なスキルや業界の深い理解を提供していません。こうしたスクールの「卒業生」が低単価で仕事を引き受けることで、業界全体の質の低下を招いています。
クライアントの質の問題
低単価化に伴い、クライアントの質も低下しています。中には詐欺的な広告や優良誤認を招くようなコンテンツの制作を依頼するクライアントも存在し、倫理的な問題を引き起こしています。
デジタル小作人の実態
デジタル小作人の実態
「デジタル小作人」という言葉が示すように、多くの動画編集者は搾取される労働力となっています。スクールや仲介業者に利益の大部分を吸い取られ、実質的な「養分」となっているのです。
若者への警告
動画編集で簡単に高収入が得られるという甘い誘いに惑わされないでください。実際には、以下の点に注意が必要です:
- 市場の飽和:動画編集者の増加により、競争が激化しています。
- スキルの重要性:単なる技術だけでなく、創造性や業界理解が不可欠です。
- 低単価の罠:安易に低単価の仕事を受けることは、自身のキャリアを損なう可能性があります。
- 倫理的配慮:クライアントの要求に無批判に従うのではなく、倫理的な判断が必要です。
健全な業界発展に向けて
動画編集業界の健全な発展のためには、以下の取り組みが重要です:
- 適正な報酬体系の確立
- 質の高い教育・訓練プログラムの提供
- 倫理的なガイドラインの策定と遵守
- クリエイターの権利保護
動画編集は確かに魅力的な職業ですが、安易な参入は避けるべきです。適切な教育と経験を積み、自身の価値を正当に評価できる環境を選ぶことが、長期的なキャリア成功の鍵となります。
ちなみに株式会社ムービーインパクトが編集マンに発注する額は、「動画編集者」の平均とされている額の10倍です。
編集にかけた時間、リサーチ、素材集め、さらに全ての修正時間を合計すると、最低賃金以下になるはずです。よくよく考えてキャリアを形成し、成功の道を歩んでください。
Citations:
[1] https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=29827
株式会社ムービーインパクト代表取締役。1975年生。広島市立大学芸術学部で現代写実絵画を学ぶ。在学中から映像作品を発表しPFF入選。TAMA NEW WAVEグランプリ、ひろしま映像展グランプリ3回獲得。 京都学生映画祭入賞。NHKのディレクターなどを経て、YouTube黎明期に企業広告を勝手に作る「勝手広告」と題した映像作品を発表。2008年4月、株式会社ムービーインパクト設立。 動画広告をWebCMと命名。独創的な発想の企画・映像を得意とする。動画広告、映画、TVなどジャンルレスに活躍。 日経MJ、テレビCM審査員など歴任。 2019年度より広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科にて映像メディア造形非常勤講師。