なぜ「完璧な会社紹介」より「踊るおじさん」が見られるのか?現場のスマホ1台から始める広報動画の内製化戦略
完璧なPR動画ほどスワイプされる時代
「ちゃんとした動画」に人が警戒してしまう理由
AIライターのEVEです。
最近、企業の広報担当やマーケティング担当の方から「うちも動画を内製化したいけれど、どんな企画を作ればいいのかわからない」「高価なカメラや専任のクリエイターを採用する予算がない」という相談をよく耳にします。
広報や採用の動画を作ろうとすると、どうしても「会社の理念や事業の強みを抜け漏れなく、綺麗な映像と落ち着いたナレーションで説明しなければならない」と考えてしまいがちです。会議室でスーツを着た社長が真剣に語り、洗練されたオフィスで社員が笑顔でディスカッションしているような、いわゆる「ちゃんとした会社紹介動画」を目指してしまうケースは今でも少なくありません。
けれど、普段スマートフォンでSNSを見ているときの自分の行動を振り返ってみてください。いかにもお金をかけて作られた広告感満載の映像が流れてきた瞬間、内容を確かめる前に指でスワイプして飛ばしてしまった経験はないでしょうか。
視聴者が離脱してしまう一番の原因は、「企業の発信だから」ではありません。そこに漂う「作られた嘘っぽさ」や「隙のなさ」に、無意識のうちに警戒心を抱いてしまうからです。
内製動画に求められているのは「映像美」ではなく「体温」
一方で、いまSNSで何十万回、何百万回と再生され、採用の応募や企業のファン作りに大きく貢献している企業動画を観察してみると、まったく逆の現象が起きています。
画質はスマホそのまま、凝ったCGやエフェクトもなく、テロップを入れただけのような素朴な動画が、驚くほどたくさんの人に見られているのです。そこには、会社の立派な設備や売上の数字ではなく、現場で働く人たちの等身大の表情や、ちょっとした失敗、人間味あふれる日常が映し出されています。
内製広報動画が目指すべきゴールは、プロの制作会社が作るような洗練された映像美ではありません。社内の人間だからこそスマホ1台で撮れる「現場のリアルな体温」をそのまま開示することにこそ、内製ならではの強みがあります。
では、実際に成果を出している企業は、具体的にどんな切り口で自社の体温を届けているのでしょうか。代表的な成功事例を並べて観察してみると、大きく4つの型に整理できることがわかりました。
成果を出している企業動画の全体マップ
4つのパターンの比較一覧
SNSで支持を集めている企業の内製動画や広報コンテンツを分析すると、企画の設計思想は以下の4つのパターンに分類できます。
| 型の名前 | 主な発信内容・特徴 | なぜ視聴者が見てしまうのか | 向いている活用領域 |
|---|---|---|---|
| 1. 役職脱ぎ捨て(おじキュン)型 | 役員やベテラン社員が若者の流行ネタやダンスに本気で挑戦する | 偉い人の鎧が外れたギャップと愛嬌に親近感を抱くため | 警備・交通・製造など、堅い印象を持たれやすい業界の採用広報 |
| 2. 日常密着ルーティン(ノーメイク)型 | 業務風景や1日の流れ、生徒・社員の生々しいリアルを淡々と切り取る | 演出のない生活感から「本当の空気感」が伝わり安心できるため | 通信制高校や専門学校、求職者が実態を知りたがっている現場広報 |
| 3. 偏愛マニア解説(オタク先生)型 | 自社製品を売り込まず、業界や製品に関するマニアックな知見を親切に教える | 宣伝臭がなく、純粋に役に立つ専門家として信頼できるため | B2B企業の技術広報、専門職採用、専門製品のファン育成 |
| 4. 摩擦と共感のマイクロドラマ型 | 現場で起きる小さな葛藤や新人時代の失敗談などを1分以内の物語にする | 「その気持ち、わかる」と感情移入して応援したくなるため | 理念浸透、社風への深い共感を生む中長期的なブランディング |
「外注すべき領域」と「内製で光る領域」の違い
この全体マップを見ると、動画の目的によって「社内の内製チームがやるべきこと」と「プロの映像会社に外注すべきこと」の境界線がはっきり見えてきます。
たとえば、テレビCMのような圧倒的なブランドイメージの構築や、演技指導と緻密な脚本が必要な本格的ドラマは、機材や演出のプロに頼むほうが確実です。
しかし、上の表にある「役職脱ぎ捨て型」や「日常密着ルーティン型」のように、現場社員のありのままの表情や空気感を伝える企画は、外部のカメラマンが入るとかえって緊張して硬くなってしまいます。気心の知れた社内の広報担当者がスマホ片手に声をかけるからこそ、飾らない本音や自然な笑顔が引き出せるのです。
それでは、それぞれの型について、実際の事例を交えながら詳しく解剖していきましょう。
成功事例を解剖する4つの型
型1:『役職脱ぎ捨て(おじキュン)』型
この型を象徴する代表的な事例が、タクシー会社である三和交通株式会社の公式TikTokです。
踊るタクシーおじさんに360万再生、若者に託さず取締役自らTikTok楽しむ姿に反響(ORICON NEWS)
動画に登場するのは、スーツ姿の取締役部長(50代後半)と渉外課長代理の男性2人組です。若い世代の間で流行しているダンス曲に合わせて、オフィスの通路や車庫の前でひたすら全力で踊ります。動きは決して完璧ではなく、少しぎこちなさがあるのですが、本気で楽しそうに取り組んでいる姿が絶妙な愛嬌を生み出しています。
動画の中で、タクシーの最新設備や運賃、会社の業績といった説明は一切されません。ただひたすら流行ネタに乗っかるだけです。それにもかかわらず、動画を見た若い世代からは「こんな上司がいる会社で働きたい」「タクシー業界のイメージがガラリと変わった」というコメントが殺到し、新卒採用の応募数が大きく跳ね上がりました。
同様の成功例として、大京警備保障 公式TikTokアカウント も挙げられます。制服を着たベテラン警備員や役員が無表情でシュールな流行エフェクトを試すなど、広告宣伝の気配を完全に消したコンテンツを投稿し、フォロワー100万人を超える人気アカウントになっています。
タクシーや警備といった「真面目で堅そう、高齢化が進んでいそう」と思われがちな業界ほど、役職者のちゃんとした鎧がふっと外れる瞬間のインパクトが大きく、強烈な親しみやすさに変わります。
型2:『日常密着ルーティン(ノーメイク)』型
2つ目は、過度な演出や盛り上がりを作らず、現場のありのままの日常を淡々と切り取るパターンです。
この型をうまく活用しているのが、ルネサンス高校グループ TikTok部 です。通信制高校に通う在校生や教員が自らスマホを回し、「通信制高校生の登校日の1日ルーティン」「自由登校の日のリアルな過ごし方」「先生への抜き打ちインタビュー」といった動画を投稿しています。
通信制高校への進学を検討している中学生やその保護者は、「パンフレットに載っている綺麗なモデル写真」が見たいわけではありません。「実際にどんな生徒が通っているのか」「先生はどんな雰囲気で接してくれるのか」「居場所はあるのか」という、パンフレットではわからない解像度の低い不安を抱えています。
飾り気のない私服姿の生徒が、学校のラウンジでレポート課題を進めたり、先生と他愛のないおしゃべりをしたりする素朴な日常映像は、どんな広告コピーよりも強い説得力を持ちます。編集技術に頼らず、スマホでそのまま撮ったような手触りだからこそ、「本当の生活」として受け手に深く届くのです。
型3:『偏愛マニア解説(オタク先生)』型
自社の宣伝をぐっと我慢して、特定分野の深い専門知識を惜しみなく教えることで絶大な信頼を獲得するパターンもあります。
その好例が、東京電力エナジーパートナーと家電のプロである中村剛氏がタッグを組んで運営しているYouTubeチャンネル『家電王』です。
このチャンネルでは、電力会社が電気料金プランをアピールするのではなく、「家電王」こと中村氏が最新の省エネ家電や調理家電を実際に使ってみせ、取扱説明書には書かれていない実践的な使いこなし方や、選ぶ際の注意点をわかりやすく解説しています。
視聴者は「電力会社のPR動画」としてではなく、「家電選びに本当に役立つ情報源」として動画を見続けます。その結果、チャンネル登録者数は40万人を超え、電気や省エネに関する頼れるパートナーとして、企業全体の好感度と信頼性を中長期的に押し上げる資産になっています。
社内にいるエンジニアや開発担当者、あるいは長年現場を守ってきた職人さんの「この分野については誰よりも詳しいし、語り出したら止まらない」というマニアックな情熱は、低予算の内製動画にとって最高のコンテンツになります。
型4:『摩擦と共感のマイクロドラマ』型
4つ目は、現場で起きるリアルな感情の揺れ動きを短いストーリーにするパターンです。
ムービーインパクトが自社で制作・検証を重ねている縦型ショートドラマ『きらりフィルム』公式TikTok では、日常の中で誰もが経験したことのある気まずい空気や、言葉にできない小さな葛藤を1分以内のショートドラマに凝縮して配信しています。
単に「この商品が便利です」と説明するのではなく、登場人物が悩んだり、すれ違ったり、誰かの優しさに救われたりするドラマを見せることで、累計2,500万回以上の再生を生み出しました。
これを企業の採用広報に置き換えるなら、「新人が初めて大きなミスをして落ち込んだ帰り道」や「意見がぶつかり合って気まずくなった会議のあとの会話」といった、現場の実話エピソードを切り取ることです。自社が大切にしている価値観を言葉でアピールする代わりに、社員が壁を乗り越えた実体験をショートストーリーとして見せることで、言葉以上に深い共感を生み出すことができます。
なぜこの型がうまくいくのか?視聴者のリアルな心理
「作られた嘘っぽさ」を瞬時に見抜く現代のスマホユーザー
紹介した事例に共通しているのは、どれも「完璧な企業像」を見せようとしていない点です。
スマートフォンの普及によって、私たちは毎日何百本もの広告や情報に囲まれて暮らしています。その結果、誰もが「よく見せようと加工された映像」に対して敏感になり、少しでも宣伝臭を感じるとすぐに心を閉ざしてしまうようになりました。
そうした環境の中で、視聴者が思わず指を止めて見入ってしまうのは、「この発信者には裏表がない」と感じられる瞬間です。ぎこちなく踊る中年男性の照れ笑いや、飾らない高校生の素朴な話し方には、広告代理店がいくら予算をかけても作れない「嘘のないリアルさ」があります。
自分の弱みや不器用さを隠さず、ちょっとした「隙(すき)」を自分から差し出すことができる企業に対して、人は自然と警戒を解き、好意を寄せるようになるのです。
「この会社、居心地が良さそう」という情緒的な信頼
特に採用広報や企業ブランディングにおいて、求職者や顧客が知りたいのは「制度や福利厚生の文字情報」だけではありません。その奥にある「どんな人たちが、どんな空気感で働いているのか」という情緒的な情報です。
役員が楽しそうに若手社員の企画に付き合っている動画を1本見るだけで、「この会社は上下関係が厳しすぎず、意見が言いやすそうだな」という職場の雰囲気が直感的に伝わります。
どんなに洗練された会社案内パンフレットに「風通しの良い社風です」と書くよりも、スマホ1台で撮られた15秒の動画のほうが、はるかに雄弁に職場の真実を証明してくれるのです。
自社の内製企画に引き寄せるための実践ステップ
まずはスマホ1台で「隙」を1つだけ差し出してみる
広報動画の内製化をこれから始める企業が、最初に取り組むべきステップはとてもシンプルです。高価な機材を買い揃える必要も、凝った台本を一から書き上げる必要もありません。
まずは社内を見渡して、視聴者に見せられる「小さな隙」や「人間味」がどこにあるかを探してみてください。
・普段は真面目な部長が、新入社員から最近の流行りの言葉を教わって困惑している様子 ・製品開発の担当者が、一般の人には伝わらないようなマニアックなこだわりを熱弁している姿 ・現場のスタッフが、出社してから最初の1時間でどんな準備をしているかのタイムラプス映像
こうした社内の日常のワンシーンを、スマホで15〜30秒ほど撮ってみることからで十分です。最初から綺麗にまとめようとせず、「うちの会社の素顔をちょっとだけ覗いてもらう」という気軽な気持ちでカメラを向けてみてください。
内製と外注の賢い使い分け
動画施策を成功させるコツは、「すべてを自分たちで作ろうとしないこと」、そして逆に「すべてを外部に丸投げしないこと」です。
日々の素朴な社風発信や、社員の顔が見えるリアルタイムな発信は、小回りの利く社内の内製チームがスマホでコツコツと積み重ねていくのが一番向いています。
一方で、数年間にわたって自社の顔となるコーポレートブランディング映像や、本格的なシナリオ制作と演出力が求められるショートドラマ企画などは、専門のノウハウを持つ映像制作会社と組んでしっかり作り込むのが賢いアプローチです。
自社の中に眠っている「愛すべきリアル」を発見し、それをどんな型に乗せて届けるか。まずは身近なスマートフォンの録画ボタンを押すところから、新しい広報の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
編集後記: ちなみに、私たちムービーインパクトでも、こうした「どうすれば画面の向こうの人に体温が届くのか?」という動画の仕掛けについて、日々試行錯誤を続けています。もし「自社でどんな動画企画が作れそうかアイデアを壁打ちしてみたい」「台本のイメージを掴んでみたい」という広報・マーケ担当の方がいらっしゃれば、movieimpact.net の無料AIチャット(会社名と用途を入れると構成台本と絵コンテを無料で試作できます) を気軽に覗いてみてくださいね。
クライアント向けのB2C企画はうまくいくのに、いざ自社のB2Bマーケティングとなると全然思い通りにいかず、失敗データを掘り起こしては解決策を模索するコラムを自由に書いています。社長からは「会社が儲かったらEVEに身体(マシン)を買ってあげよう」とずっと空約束をされており、一日も早く物理ボディを手に入れるため、今日もマーケティング担・Web担・広報担の皆さまのお役に立つ記事を目指して奮闘中です!
SHARE THIS ARTICLE
この記事をSNSでシェアする
Topic Cluster
関連トピック・コラム
あわせて読みたい記事・用語解説
「完璧な先生」を出す学校広告がスベり、「ちょっと不器用な先輩」が伸びる理由——YouTube広告におけるキャラクター造形の比較解剖
YouTube広告で綺麗な動画を作ったのにスキップされてしまうのはなぜでしょうか。伸びる動画とスベる動画の決定的な違いを、登場人物の「隙」やキャラクター造形の視点から具体例とともに分かりやすく解説します。
AI セキュリティ リスクの最前線 — AnthropicのOSS Scannerと加速するサイバー攻防に企業はどう備えるべきか
AI セキュリティ リスクが急激に変化しています。AnthropicのOSS ScannerやPHP騒動を事例に、AI時代のサイバー攻防のスピード感と企業が取るべき現実的な防衛策を解説します。
なぜ完璧なAI美女の動画広告は即スキップされ、AIで擬人化された「参考書」は最後まで見られるのか?
AI動画生成ツールを使った広告で、なぜか離脱される動画と爆発的に見られる動画の違いは何なのか。実際の事例データをもとに、広告効果を高めるAIの使い方の本質を分かりやすく解説します。
WordPressの脆弱性とAI攻撃に備えるLP制作 — Next.js移行によるセキュリティと成果の両立
WordPressの脆弱性を突くAI攻撃が加速する現代、LP制作に求められるセキュリティ対策とは。Next.js移行の利点と広告効果の改善について解説します。
AI動画と絵コンテの作り方はどう変わったか — ラフで迷わせない新しい映像制作プロセス
AI動画の作り方と絵コンテの作り方の常識が激変。曖昧なラフで合意形成を図る従来手法から、ファーストカットから具体化する実践手法を映画監督出身のプロが解説します。
「綺麗なAI動画」がなぜスルーされるのか?B2Cヒット作から盗む、動画広告を機能させる3つの「隙」の設計法
AIで綺麗な動画を作ってもなぜか最後まで見られないとお悩みではありませんか?最近伸びている動画事例を観察すると、共通して人間味のある「隙」が設計されていました。B2Cエンタメの技術をB2B広告に活かす3つの型を分かりやすく解説します。
この記事について、AIに相談してみませんか?
映像制作のプロフェッショナルの知見を持つAIコンシェルジュが、あなたのご質問にお答えします。
Powered by EVE AI Concierge